石橋 武の「多読乱読、言いたい放題!」089

 私が今まで読んだ本のうち、印象に残った本を紹介しています。

● 安部公房『カンガルー・ノート』
 1991年上梓。
 著者の名は私にとって、とても懐かしいものだ。覚束ない記憶を辿ってみる。中学生の頃から読み出したSF小説、その傾向である『第四間氷期』、『人間そっくり』が、彼の著作との邂逅だった。その後、『壁』、『飢餓同盟』、『水中都市』、『他人の顔』、『燃えつきた地図』、『砂の女』、『箱男』、『密会』、『方舟さくら丸』、『榎本武揚』、『笑う月』とほとんどの作品を渉猟した。中でも衝撃的だった作品は『燃えつきた地図』だ。勝新太郎主演の映画まで観た。この作品は私の生涯のベスト10に入る。
 こうして著者の作品を青年期に読んでいながら、彼が1993年に68歳で死去したせいで新作が出なくなったということもあるのだろうが、最近は全く彼の作品に触れることがなかった。先日、ジュンク堂で、著者の最後の長編、とあったこの作品を手にした。「ああ、これは読んでないなぁ、読んでみたいなぁ」と沸き上がるものがあった。久しぶりの、本当に久しぶりの「安部公房」との再会だった。
 さて、この作品、基本的には『笑う月』の長編版と言ってもいいだろう。つまり、夢を素材とした創作だ。何かメッセージがあるわけではないのだろう。ただただ、夢のジェットコースター(自走式寝台?)に乗って、様々な奇矯な出来事に遭遇する主人公と共に、読者はその奇想と諧謔と、そして最後の最後、人間に残された「食欲」と「性欲」の残滓の無惨さを体験する。それにしても、なんと見事なレトリックを駆使する人だったのか、と改めて感心することしきりであった。例えば、「近距離用らしい三両編成の電車が、空気に鉋(かんな)を当てながら通過した」(P.138)、「吹きすさぶ風。病棟とほぼ直角に切り結ぶ北東の風。速度の違う大気の流れが、上空で摩擦し合う音。地面の凹凸が鳴らすアナログ式の蓄音機。濃縮された情報のシチュー。聴覚神経を精密分析器にして、音の分離をこころみる」(P.183)などなど。読後、改めて著者の作品を再読したい、という強い欲求が膨れ上がって来た。

★モシャの呟き
 カンガルーがお腹のポケットにいつもノートを入れていて、それが家計簿だったら嫌だなぁと思いました。電卓も一緒に入れていたら、もっと嫌です。

石橋 武の「多読乱読、言いたい放題!」010

 私が今まで読んだ本のうち、印象に残った本を紹介しています。

● 乾 緑郎『完全なる首長竜の日』
 2011年作品。
 題名はJ.D.サリンジャーの「ナイン・ストーリーズ」の冒頭の短編「A Perfect Day For Bananafish(バナナフィッシュにうってつけの日)」のもじりで、「A Perfect Day For Plesiosaur」の直訳。結末もこの短編によっている。
 「何故、シーモアは拳銃自殺したのか?」。それに対して、主人公の弟はセッションの中でこう言う。「今自分が生きている現実が、本当の現実かどうか試したかったんだ」。
 プロットの大枠は「胡蝶の夢」をモチーフとしている。人間の存在(リアル)というものを、夢の多層構造から探るという、純文学的テーマをも内包している。ヴィジュアル喚起力が強い文体で、読んでいる間、この作品を映画化すれば素晴らしいだろうなぁ、とずっと思っていた。誰か、この素晴らしい作品を映画化してくれないものだろうか?
PS. 私の願いが通じたのか、映画化されたようだ。夏ごろに公開かな?

★モシャの呟き
 まさかの「首長竜(くびながりゅう)」。
 私は、「『完全なる首長』である『竜(人名)の日』」だと思っていました。竜は、50代男性。ダブルのスーツ着用。
 要するに、現代日本で竜が天下をとるまでの出来事を綴った、一種のサクセスストーリーだと思っていたのです。あれ?!
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プロフィール

●ミネルバネオ代表 石橋武
【経歴】
1974年/立命館大学経営学部を卒業し、㈱大阪読売広告社に入社
1994年/現代文講師出口汪氏と大学受験予備校S.P.Sを立ち上げるべく、㈱大阪読売広告社を退社。㈱ミネルバ代表取締役として、大阪、後に東京で大学受験予備校S.P.Sを経営。
2002年/大阪のS.P.Sにて、出口氏が開発した教材「論理エンジン」を使用した個人のお客様向け添削業務や国語特訓塾、学校様・塾様向けの「論理エンジン」販売や指導方法のレクチャーを開始。
2007年5月/㈱水王舎代表取締役に就任し、「論理エンジン」営業のみならず、書籍の企画・販売にも携わる。
2011年2月、㈱水王舎代表代表取締役を退任。
2011年8月/ミネルバネオを設立
趣味は読書、映画鑑賞。MC中心のお笑いオヤジバンドの一員でもある。

●共同執筆者(ペンネーム:モシャ)プロフィール
甲南大学を卒業しました。
ミネルバネオで働いています。
30代半ばを過ぎてしまいました。
よく聴く音楽はプリンス、レディオヘッド、シールなどです。
親戚は人間国宝(陶芸)です。ちなみに私の父方の祖父も陶芸家でした。

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