何でもある時代に生きること

 朝日新聞夕刊の二面に連載されている「人生の贈りもの」は、様々な著名人へのインタビューで構成された記事である。
 2010年10月4日から7日まではジャズマン、渡部貞夫氏(77歳)だった。

 今年4月から国立音大にできるジャズ専修の教授として招かれることに決まった渡部氏は、そこへ「教えにいく」というよりは「ミュージッシャン探しにいく」と語る。
 「いまの若者たちは、ぼくなんかの時代よりずっと、技術的には素晴らしいものを持っている」。「情報が多く」、「勉強する場が多い」、だから結果として「うまい子は多い」。しかし、彼が求めているのは「うまいプレーヤー」ではなく「いいプレーヤー」。
 「ジャズって、非常に人間的な音楽なんです。演奏は、その人のメッセージを伝えることですし、その人の人格が全部、音に表れちゃう」。だから「技術だけじゃなく、センスや」、「品格もいります。ストレートに聴衆の心にタッチできる生き様、みたいなものが必要」なのだ。
 ところが、現代は「ストレートに聴衆の心にタッチできる生き様」を醸成しづらい時代だと彼はいう。何故なら「現代って、気が散る時代じゃないですか。何でもあって手に入る。自分のやりたいことにフォーカスできていない感じがするんです」。
 彼の時代には何もなかった。だから、これだと思ったものにはとことんのめり込めた。「自分の欲しい音楽が何なのかを突きつめていくうち、自然にほかのものが見えてきて視野が広がり、ものを客観的に見るようにな」った。
 それがミュージシャン・渡部貞夫を創った。
 何も無いということは、逆にこれだと思ったものにフォーカスしやすい。夢中になれる。頑張れる。工夫もする。そして一流といわれる人材となり得る。
 それに比して、私たちはどうだろう。何でもある世の中。私たちはあれもこれもと、与えられた情報をよく吟味もせず、「流行」とか「トレンド」とかいう何の根拠も無い言葉に幻惑され、砂糖に群がる蟻のように消費へと走る。遅れまいと、浅く、広く、次から次へと、それが正しいと盲目的に信じて……。
 しかし、私は悲観していない。
 何故なら、溢れ返るモノの「選択」に疲れたり、疑問を持ったりした人たちは、「選択」という安易な道を棄て、「創造」という困難な道を選ぶに違いない、と思うから。
 渡部氏がいう。「やっぱり、とにかく、節があって個性的な、いいプレーヤーと出会いたいですね。そして、一緒にセッションしたい。いくつになっても、ジャズミュージシャンは、いい音との出会いを求めて生きる。一生同じですよ。」
 サダオ・スマイルが私の目に浮かぶ。
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プロフィール

●ミネルバネオ代表 石橋武
【経歴】
1974年/立命館大学経営学部を卒業し、㈱大阪読売広告社に入社
1994年/現代文講師出口汪氏と大学受験予備校S.P.Sを立ち上げるべく、㈱大阪読売広告社を退社。㈱ミネルバ代表取締役として、大阪、後に東京で大学受験予備校S.P.Sを経営。
2002年/大阪のS.P.Sにて、出口氏が開発した教材「論理エンジン」を使用した個人のお客様向け添削業務や国語特訓塾、学校様・塾様向けの「論理エンジン」販売や指導方法のレクチャーを開始。
2007年5月/㈱水王舎代表取締役に就任し、「論理エンジン」営業のみならず、書籍の企画・販売にも携わる。
2011年2月、㈱水王舎代表代表取締役を退任。
2011年8月/ミネルバネオを設立
趣味は読書、映画鑑賞。MC中心のお笑いオヤジバンドの一員でもある。

●共同執筆者(ペンネーム:モシャ)プロフィール
甲南大学を卒業しました。
ミネルバネオで働いています。
30代半ばを過ぎてしまいました。
よく聴く音楽はプリンス、レディオヘッド、シールなどです。
親戚は人間国宝(陶芸)です。ちなみに私の父方の祖父も陶芸家でした。

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