素敵な時計
母は真面目な話をするのも、されるのも大嫌いで、私が進路の相談をしても全く取り合ってくれない人だった。だから、受験する高校も大学も、全部自分で決めた。私は、「教育ママ」を母に持つ子供たちが羨ましかった。あれこれ一緒に考えて欲しいと思っていた。が、母にそういう話を持ちかけようとすると、いつも逃げられた。
大学受験の際、何校受験するか、学部をどうするかなど色々相談したいと思い母に詰め寄っても、きまって母は、「私は、わからんから」と逃げた。それでもしつこく追いかけていき助言を求めてみても、まだ話の途中であるにも関わらず、「もう眠いから、寝るわ」と寝室に消えた。昼間話をしようとしても、母は仕事場に居るため、難しい。休日も何処かに出掛けてしまい、私が起きる頃にはもう居ない。母に真面目な話をするのは、至難の業なのである。しかし、楽しい話は大好きなので、私と弟たちが話をしていると、母は必ず口を挟むタイミングを伺っている。そう、あの夜も。
まだ私が大学生の頃のこと。休日の午後10時頃。リビングには、私と2歳違いの弟、母が居た。私と弟は絨毯の上で寝転がりながら他愛ない話をしていて、母は台所で洗い物をしていた。
「あのさぁ」
家事を終えた母は、私たちの会話に突然割って入り、「こないださぁ」と話し始めた。
「すごい流行ってる時計があるってテレビで言っててんけど」
母は、「その時計は、安くて、色々なデザインがあり、軽い」とテレビで見た時計についての情報を熱心に話してくれた。が、時計の名前を忘れてしまったらしく、「何やったっけ」と話の途中で首を傾げた。私も弟も、「何や、それ」と母に聞くしかなく、3人共困り果てた頃。やっと思い出したのか、母の顔が一瞬パッと明るくなった。母は、自信満々。誇らしげにその時計の名を、口にした。
「ウオッチや」
「ウオッチ? それって、時計っていう日本語を英語にしただけじゃ・・・」
私が最後まで言い終えないうちに、弟は隣で大爆笑していた。
「お母さん。それ、スウォッチや」
母は、照れ笑いを浮かべ、私と弟は、「ウオッチって、魚か!」とつっこんでおいた。
有り得ないことを言ったりやったりしてくれるので、母のエピソードには事欠かない。これからも機会があれば、続編を書きたいと思う。本人からクレームが来ないことを祈りつつ。

次回のモシャブログは、文章「スパイの適性」・漫画005シリーズ第1話「もしも母がスパイなら」の予定です。
大学受験の際、何校受験するか、学部をどうするかなど色々相談したいと思い母に詰め寄っても、きまって母は、「私は、わからんから」と逃げた。それでもしつこく追いかけていき助言を求めてみても、まだ話の途中であるにも関わらず、「もう眠いから、寝るわ」と寝室に消えた。昼間話をしようとしても、母は仕事場に居るため、難しい。休日も何処かに出掛けてしまい、私が起きる頃にはもう居ない。母に真面目な話をするのは、至難の業なのである。しかし、楽しい話は大好きなので、私と弟たちが話をしていると、母は必ず口を挟むタイミングを伺っている。そう、あの夜も。
まだ私が大学生の頃のこと。休日の午後10時頃。リビングには、私と2歳違いの弟、母が居た。私と弟は絨毯の上で寝転がりながら他愛ない話をしていて、母は台所で洗い物をしていた。
「あのさぁ」
家事を終えた母は、私たちの会話に突然割って入り、「こないださぁ」と話し始めた。
「すごい流行ってる時計があるってテレビで言っててんけど」
母は、「その時計は、安くて、色々なデザインがあり、軽い」とテレビで見た時計についての情報を熱心に話してくれた。が、時計の名前を忘れてしまったらしく、「何やったっけ」と話の途中で首を傾げた。私も弟も、「何や、それ」と母に聞くしかなく、3人共困り果てた頃。やっと思い出したのか、母の顔が一瞬パッと明るくなった。母は、自信満々。誇らしげにその時計の名を、口にした。
「ウオッチや」
「ウオッチ? それって、時計っていう日本語を英語にしただけじゃ・・・」
私が最後まで言い終えないうちに、弟は隣で大爆笑していた。
「お母さん。それ、スウォッチや」
母は、照れ笑いを浮かべ、私と弟は、「ウオッチって、魚か!」とつっこんでおいた。
有り得ないことを言ったりやったりしてくれるので、母のエピソードには事欠かない。これからも機会があれば、続編を書きたいと思う。本人からクレームが来ないことを祈りつつ。

次回のモシャブログは、文章「スパイの適性」・漫画005シリーズ第1話「もしも母がスパイなら」の予定です。