文章「本物の刑事」・漫画「弟が実家に帰って来た」と年末のご挨拶
数年前のある日。もうすでに結婚して家を出ていた私は、「久しぶりにお茶でも飲もう」と母に電話を掛けた。母はいつもと変わらぬ様子で、「いいで」と受話器越しに言った。けれど約束の日、私の目の前に座った母はどことなく元気がなかった。理由を聞くと、実家である事件が起こり、警察に届け出たということだった。
母:「それで、刑事さんが2人来てくれてん」
私:「刑事って、本物の?」
母:「そう。本物、本物。事情を聞いてメモを取っててん」
私:「メモを取ってたんかぁ」
母:「そう」
私:「すごい。刑事さんて」
母:「ふふふ。でも、思ったより普通やったで」
私:「2人とも?」
母:「2人とも」
最初暗い表情をしていた母は、刑事さんの話を始めるや否や、口の端に笑みを浮かべていた。話を聞いていた私も、何故かニヤニヤが止まらない。
「なんで、呼んでくれんかったんや」
私が抗議すると、「それどころじゃなかってん。まさか刑事さんが来るとは思ってなかったし」と母は、紅茶のカップに口をつけた。
私は、未だ本物の刑事さんを見たことがない。
しかし、警察官なら知り合いにいるし、どうやら友人の知り合いに刑事さんが複数いるらしいことが判明した。刑事さんを見られなかったことを悔む私に、ある友人は、「会わせてやろうか」とまで言ってくれた。けれど私が望んでいるのは、喫茶店で待ち合わせをして刑事さんとお茶を飲むというような行為ではなく、あくまで捜査中の刑事さんを観察することなのである。私は出来るだけ自然な形で刑事さんに近づいてみたいのだ。
気づかないうちに、捜査中の刑事さんと接している可能性は高い。道ですれ違ったことがあるかもしれないし、定食屋で相席をしたことがあるかもしれない。電車で同じ車両に乗ったことがあるかもしれないし、私が喫茶店でアルバイトをしていた頃、お客さんとしてやってきた刑事さんの注文を受けたことがあるかもしれない。しかし、残念なことに、もし刑事さんが居たとしても、そのような状況下ではその人が刑事さんだとはわからない。
昔、テレビドラマで、張り込みのために喫茶店に入った刑事さんがウエイトレスに、「水」と注文するシーンが多々あった。けれど、実際に水を注文するような刑事さんは少数派のようだ。私は元刑事である北芝健氏の著書を何冊か読んだことがある。が、北芝氏が喫茶店に入った際に水を注文したなどというエピソードは載っていなかった。コーヒーなどの飲み物を頼んでいたためか、著書の中で、捜査費としての飲食代もバカにならないと北芝氏が嘆いていたのを覚えている。
捜査中、本物の刑事さんはどのような服を着ていて、どのような喋り方をするのだろうか。私の刑事さんに対する興味は尽きない。
あの日、母にどうしても聞いてみたいことがあり、聞いてみた。
「刑事さんは、トレンチコート着てた?」
「着てなかった」
「2人とも?」
「2人とも」
なんと。刑事さんは、トレンチコートを着ていないらしい。私の刑事さんに対する謎は深まるばかりである。

次回のモシャブログは、文章「壊し屋の日々」・漫画「私がよく壊すもの」の予定です。
〈2011年:年末のご挨拶〉
皆様のご支援のお陰で、どうにか年末までブログを続けることができました。本当に有難うございます。感謝の気持ちでいっぱいです。また、皆様から沢山の拍手を頂き、とても嬉しく思っております。
当初、「モシャというペンネームで大丈夫なのかなぁ」などと色々思い悩んだのも、今となっては良い思い出です。ちなみにモシャ以外の候補は、太鼓太郎と風林火山でした。
8月の開業から、様々な事がありました。それでもどうにか花も嵐も踏み越えてこられたのは、皆様のお力添えあってのことだと感謝しております。
本当に有難うございました。
来年もよろしくお願いいたします。
〈ミネルバネオ年末年始の営業について〉
年内は28日まで、年始は4日から営業いたします。
母:「それで、刑事さんが2人来てくれてん」
私:「刑事って、本物の?」
母:「そう。本物、本物。事情を聞いてメモを取っててん」
私:「メモを取ってたんかぁ」
母:「そう」
私:「すごい。刑事さんて」
母:「ふふふ。でも、思ったより普通やったで」
私:「2人とも?」
母:「2人とも」
最初暗い表情をしていた母は、刑事さんの話を始めるや否や、口の端に笑みを浮かべていた。話を聞いていた私も、何故かニヤニヤが止まらない。
「なんで、呼んでくれんかったんや」
私が抗議すると、「それどころじゃなかってん。まさか刑事さんが来るとは思ってなかったし」と母は、紅茶のカップに口をつけた。
私は、未だ本物の刑事さんを見たことがない。
しかし、警察官なら知り合いにいるし、どうやら友人の知り合いに刑事さんが複数いるらしいことが判明した。刑事さんを見られなかったことを悔む私に、ある友人は、「会わせてやろうか」とまで言ってくれた。けれど私が望んでいるのは、喫茶店で待ち合わせをして刑事さんとお茶を飲むというような行為ではなく、あくまで捜査中の刑事さんを観察することなのである。私は出来るだけ自然な形で刑事さんに近づいてみたいのだ。
気づかないうちに、捜査中の刑事さんと接している可能性は高い。道ですれ違ったことがあるかもしれないし、定食屋で相席をしたことがあるかもしれない。電車で同じ車両に乗ったことがあるかもしれないし、私が喫茶店でアルバイトをしていた頃、お客さんとしてやってきた刑事さんの注文を受けたことがあるかもしれない。しかし、残念なことに、もし刑事さんが居たとしても、そのような状況下ではその人が刑事さんだとはわからない。
昔、テレビドラマで、張り込みのために喫茶店に入った刑事さんがウエイトレスに、「水」と注文するシーンが多々あった。けれど、実際に水を注文するような刑事さんは少数派のようだ。私は元刑事である北芝健氏の著書を何冊か読んだことがある。が、北芝氏が喫茶店に入った際に水を注文したなどというエピソードは載っていなかった。コーヒーなどの飲み物を頼んでいたためか、著書の中で、捜査費としての飲食代もバカにならないと北芝氏が嘆いていたのを覚えている。
捜査中、本物の刑事さんはどのような服を着ていて、どのような喋り方をするのだろうか。私の刑事さんに対する興味は尽きない。
あの日、母にどうしても聞いてみたいことがあり、聞いてみた。
「刑事さんは、トレンチコート着てた?」
「着てなかった」
「2人とも?」
「2人とも」
なんと。刑事さんは、トレンチコートを着ていないらしい。私の刑事さんに対する謎は深まるばかりである。

次回のモシャブログは、文章「壊し屋の日々」・漫画「私がよく壊すもの」の予定です。
〈2011年:年末のご挨拶〉
皆様のご支援のお陰で、どうにか年末までブログを続けることができました。本当に有難うございます。感謝の気持ちでいっぱいです。また、皆様から沢山の拍手を頂き、とても嬉しく思っております。
当初、「モシャというペンネームで大丈夫なのかなぁ」などと色々思い悩んだのも、今となっては良い思い出です。ちなみにモシャ以外の候補は、太鼓太郎と風林火山でした。
8月の開業から、様々な事がありました。それでもどうにか花も嵐も踏み越えてこられたのは、皆様のお力添えあってのことだと感謝しております。
本当に有難うございました。
来年もよろしくお願いいたします。
〈ミネルバネオ年末年始の営業について〉
年内は28日まで、年始は4日から営業いたします。