文章「さようなら、壊れた友よ」・漫画は「日本、再発見」
私は、かつてセサミストリートのエルモの縫いぐるみを持っていた。大人になってから、自分で買ったものである。玩具売り場に売っているのを見て、買わずにはいられなかった。家に持ち帰り、何度もエルモのお腹を押した。押すと、喋る。「エルモ、貴方がだーいすき」などと言ってくれるのである。
しかし、数年後。もう、エルモのお腹を自主的に押すこともなくなった頃。たまたま私の肘がエルモのお腹に当たり、声が出た。けれど、その声は以前のように滑らかなものではなく、まるで壊れたロボットのようだった。
それから、また1年ほど経った頃。エルモの声は、もう、ほとんど出なくなっていた。私は、決心した。エルモを捨てよう、と。が、何年もリビングに居た彼をいきなりゴミと一緒にゴミ袋に入れるのは、躊躇われた。そこで、ふと思い出したのが、人形供養をしてくれる寺のことだった。
自宅から1時間ほどの所にあるその寺に行く際、私は紙袋にエルモとプーさんの縫いぐるみを入れて、家を出た。エルモ1人だと可哀想なので、プーさんも紙袋に入れたのだ。共に旅立てば、エルモの辛さも少しは和らぐかもしれない。そう考えてのことだった。
寺に着いた私は、袈裟を着た禿頭のお坊さんに彼らを預け、料金を支払い、整理券のようなものを受け取った。これでよし。そう思いつつ、帰宅した。
が、家に帰ってから突然、言い忘れたことがあるのを思い出した。メラメラと燃え盛る炎に人形を投げ込むのだとしたら、マズイ。エルモは喋るように出来ているため、電池のような、燃やすと良くない物が体内に埋め込まれているかもしれないのだ。「燃やさないで欲しい」と告げておかなければならなかったのに、告げるのを忘れた。
私は、お坊さんが怪我をするのではないかと不安になり、翌日寺に電話を入れた。
「もしもし、××寺ですが」
「すみません。昨日人形供養のために人形を預けた者なんですが。お話するのを忘れていたことがありまして」
私が、その先を言おうとすると、電話口に出た女性は、「いや。ちょっと待って下さい。係の者に代わりますので」と、慌てた口調で告げた。その動揺が尋常ではない感じだったので、私には「何故?」という疑問が湧いた。が、女性に代わって電話口に出たお坊さんと思しき方にとにかく事情を話した。
「赤い、エルモという人形を預けたのですが、中に電池が入っているかもしれないので、焼いたりしないでください」
私がそう話すまで、妙に緊迫した空気が流れていた。だが、話し終えると、「あぁ、そうですか。わざわざ有難うございます」と相手の方は、安堵の溜息をついた後に明るい声を出した。
最初に電話に出た女性の動揺や次に電話に出た係の方の緊張は、一体どこから来るのだろうか。電話を切った後も、私の心の中には違和感が残った。けれど、暫く考えて、わかった。2人とも、人形に纏わる恐ろしい話が私の口から語られることを恐れたのだろう、と。例えば、エルモの毛が伸びるだとか、深夜に歩き出すだとか。
確かにそれは嫌だ。

次回のモシャブログは、文章「愚か者の嘆き」・漫画005シリーズ第11話「狂い咲け、恋の花」の予定です。
しかし、数年後。もう、エルモのお腹を自主的に押すこともなくなった頃。たまたま私の肘がエルモのお腹に当たり、声が出た。けれど、その声は以前のように滑らかなものではなく、まるで壊れたロボットのようだった。
それから、また1年ほど経った頃。エルモの声は、もう、ほとんど出なくなっていた。私は、決心した。エルモを捨てよう、と。が、何年もリビングに居た彼をいきなりゴミと一緒にゴミ袋に入れるのは、躊躇われた。そこで、ふと思い出したのが、人形供養をしてくれる寺のことだった。
自宅から1時間ほどの所にあるその寺に行く際、私は紙袋にエルモとプーさんの縫いぐるみを入れて、家を出た。エルモ1人だと可哀想なので、プーさんも紙袋に入れたのだ。共に旅立てば、エルモの辛さも少しは和らぐかもしれない。そう考えてのことだった。
寺に着いた私は、袈裟を着た禿頭のお坊さんに彼らを預け、料金を支払い、整理券のようなものを受け取った。これでよし。そう思いつつ、帰宅した。
が、家に帰ってから突然、言い忘れたことがあるのを思い出した。メラメラと燃え盛る炎に人形を投げ込むのだとしたら、マズイ。エルモは喋るように出来ているため、電池のような、燃やすと良くない物が体内に埋め込まれているかもしれないのだ。「燃やさないで欲しい」と告げておかなければならなかったのに、告げるのを忘れた。
私は、お坊さんが怪我をするのではないかと不安になり、翌日寺に電話を入れた。
「もしもし、××寺ですが」
「すみません。昨日人形供養のために人形を預けた者なんですが。お話するのを忘れていたことがありまして」
私が、その先を言おうとすると、電話口に出た女性は、「いや。ちょっと待って下さい。係の者に代わりますので」と、慌てた口調で告げた。その動揺が尋常ではない感じだったので、私には「何故?」という疑問が湧いた。が、女性に代わって電話口に出たお坊さんと思しき方にとにかく事情を話した。
「赤い、エルモという人形を預けたのですが、中に電池が入っているかもしれないので、焼いたりしないでください」
私がそう話すまで、妙に緊迫した空気が流れていた。だが、話し終えると、「あぁ、そうですか。わざわざ有難うございます」と相手の方は、安堵の溜息をついた後に明るい声を出した。
最初に電話に出た女性の動揺や次に電話に出た係の方の緊張は、一体どこから来るのだろうか。電話を切った後も、私の心の中には違和感が残った。けれど、暫く考えて、わかった。2人とも、人形に纏わる恐ろしい話が私の口から語られることを恐れたのだろう、と。例えば、エルモの毛が伸びるだとか、深夜に歩き出すだとか。
確かにそれは嫌だ。

次回のモシャブログは、文章「愚か者の嘆き」・漫画005シリーズ第11話「狂い咲け、恋の花」の予定です。