石橋 武の「多読乱読、言いたい放題!」018
私が今まで読んだ本のうち、印象に残った本を紹介しています。
● 村上春樹『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』
1985年作品。初版が出た当時にハードカバーで読んだ。
二つの世界が同時並行で語られる。
一つは少し歪んだ現代である「ハードボイルド・ワンダーランド」。主人公の職業は「計算士」。「計算士」は組織=システムに属する。それと対立するのが「記号士」(=工場)。「記号士」たちが狙っているのは究極の暗号化システムである「シャッフル」。それを考案した博士と、その体現者であり唯一の生存者である主人公。「シャッフル」とは、「計算士」の意識下部にある世界を抽出し、それを秩序立て、再度脳内に挿入する。その再構築された意識世界を通過させることにより、暗号化を図るというものだ。従って、「シャッフル」によって暗号化された数字は、再度同じ「計算士」の意識世界を経なければ解けない。「記号士」が巡らす罠、その手先である「やみくろ」が潜む東京の地下社会というワンダーランドを主人公は博士の孫娘と共に経巡る。そして……。
もう一つの世界は、「世界の終わり」。それは彼の脳内にある下部意識を再構築した世界だ。つまり並行して語られているが、「ハードボイルド・ワンダーランド」のラストがそのまま「世界の終わり」に繋がっている。そこは、壁で囲われ、一角獣が棲む閉じた世界。主人公は一角獣の頭骨から古い夢を読みとる「夢読み」。主人公はこの国を訪れた途端、自分の「影」(=心)を切り取られてしまう。「影」は囚人のように囚われの身でいつか死ぬ。そしてそれと同時に主人公は外の世界へは出られなくなってしまう。この世界の住人は総て心を無くした人達。主人公は手風琴を手がかりに、失ってしまった現実世界の記憶(=心)を取り戻そうとする。「影」はなんとか主人公と一緒に外界へ出ようと画策する。が、最後に主人公が下した結論は……。
再読して、小説としての面白さは言うまでもないが、これまで様々なメタファーを登場させ、自分探しを思考し描き続けた著者が、持てるイマジネーションを総動員して巨大なメタファー世界を構築し、逆説的な言い回しになるが、思考を行動にまで昇華させた作品ではないかと、強く感じた。ただ、構築した世界を読者に理解してもらうために、物語のテンポを中断するという犠牲を強いてまで説明部分を多くせざるを得なかったのは、少し残念な気がする。
★モシャの呟き
「ハードボイルドは堅ゆで卵に由来する。やわじゃない男の生きざまを表している」
そう、先日とある方から聞きました。
私は、男ではありません。が、私の生きざまも自分では、なかなかハードボイルドだなぁと思っています。しかし、外見からは、どうもフニャフニャの温泉卵に見えるらしく、友達や知り合いから、突然説教をくらうことがよくあります。辛いです。
あと、「『記号士』が巡らす罠、その手先である『やみくろ』が潜む東京の地下社会」とありますが、「やみくろ」じゃなく「ゆにくろ」なら怖くないことに、今気づきました。
● 村上春樹『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』
1985年作品。初版が出た当時にハードカバーで読んだ。
二つの世界が同時並行で語られる。
一つは少し歪んだ現代である「ハードボイルド・ワンダーランド」。主人公の職業は「計算士」。「計算士」は組織=システムに属する。それと対立するのが「記号士」(=工場)。「記号士」たちが狙っているのは究極の暗号化システムである「シャッフル」。それを考案した博士と、その体現者であり唯一の生存者である主人公。「シャッフル」とは、「計算士」の意識下部にある世界を抽出し、それを秩序立て、再度脳内に挿入する。その再構築された意識世界を通過させることにより、暗号化を図るというものだ。従って、「シャッフル」によって暗号化された数字は、再度同じ「計算士」の意識世界を経なければ解けない。「記号士」が巡らす罠、その手先である「やみくろ」が潜む東京の地下社会というワンダーランドを主人公は博士の孫娘と共に経巡る。そして……。
もう一つの世界は、「世界の終わり」。それは彼の脳内にある下部意識を再構築した世界だ。つまり並行して語られているが、「ハードボイルド・ワンダーランド」のラストがそのまま「世界の終わり」に繋がっている。そこは、壁で囲われ、一角獣が棲む閉じた世界。主人公は一角獣の頭骨から古い夢を読みとる「夢読み」。主人公はこの国を訪れた途端、自分の「影」(=心)を切り取られてしまう。「影」は囚人のように囚われの身でいつか死ぬ。そしてそれと同時に主人公は外の世界へは出られなくなってしまう。この世界の住人は総て心を無くした人達。主人公は手風琴を手がかりに、失ってしまった現実世界の記憶(=心)を取り戻そうとする。「影」はなんとか主人公と一緒に外界へ出ようと画策する。が、最後に主人公が下した結論は……。
再読して、小説としての面白さは言うまでもないが、これまで様々なメタファーを登場させ、自分探しを思考し描き続けた著者が、持てるイマジネーションを総動員して巨大なメタファー世界を構築し、逆説的な言い回しになるが、思考を行動にまで昇華させた作品ではないかと、強く感じた。ただ、構築した世界を読者に理解してもらうために、物語のテンポを中断するという犠牲を強いてまで説明部分を多くせざるを得なかったのは、少し残念な気がする。
★モシャの呟き
「ハードボイルドは堅ゆで卵に由来する。やわじゃない男の生きざまを表している」
そう、先日とある方から聞きました。
私は、男ではありません。が、私の生きざまも自分では、なかなかハードボイルドだなぁと思っています。しかし、外見からは、どうもフニャフニャの温泉卵に見えるらしく、友達や知り合いから、突然説教をくらうことがよくあります。辛いです。
あと、「『記号士』が巡らす罠、その手先である『やみくろ』が潜む東京の地下社会」とありますが、「やみくろ」じゃなく「ゆにくろ」なら怖くないことに、今気づきました。