石橋 武の「多読乱読、言いたい放題!」108

 私が今まで読んだ本のうち、印象に残った本を紹介しています。
●村上春樹『中国行きのスローボート』。
 1983年上梓。
 この作品集は、『1973年のピンボール』後の4編、『羊をめぐる冒険』後の3編、つまり1980年春から1982年夏にかけて発表された7編で構成されている。
◆『中国行きのスローボート』:今までの生涯で出会った3人の中国人。小学生の頃、模試を受けるために訪れた中国人学校。その監督官の中国人教師。アルバイト先で知り合った女子大生。10年を経て再会した高校時代の同級生。それぞれのちょっとしたエピソードを思い出し、そして、主人公は思うのだ。「友よ、中国はあまりにも遠い」と。
◆『貧乏な叔母さんの話』:背中に張り付いた「小さな貧乏な叔母さん」。彼と関わる人たちは、彼の背中に自らにとって「目を逸らせたいもの」を見る(らしい)。「もちろん時は全ての人々を平等にうちのめしていくのだろう。(中略)/それでもぼくたちは貧乏な叔母さんという、いわば水族館のガラス窓をとおして、そんな時の跳梁ぶりを目のあたりに見ることができる。狭苦しいガラスケースの中で、時はオレンジみたいに叔母さんをしぼりあげていた。汁なんかもう一滴も出やしない。僕を引きつけるのは、彼女の中のそんな完璧さだ。/もう本当に一滴だって出やしないんだよ!」。「死」から、またはそれを象徴するものから目が離せない。しかし、ある時、「小さな貧乏な叔母さん」は僕の背中から去っていった。
◆『ニューヨーク炭坑の悲劇』:台風や集中豪雨がやってくる度に、動物園へ足を運ぶ習慣を持つ友人。葬儀がある度に、僕は彼に礼服を借りる。それが頻繁に起こった年。「夜の闇の中をね、地の底から這い上がってきたその目に見えない何かが跳梁しているんだ。冷やりとした空気の塊りみたいなものさ。でも動物たちはそれを感じる。そして、俺は動物たちの感じるそれを感じる」。「死」は本当に身近に在るのだ。
◆『カンガルー通信』:デパートの商品管理課に務めている僕。レコード交換を言ってきた顧客(女性)の手紙に感じた「大いなる不完全さ」に触発された僕は、彼女へ返信しなくては、と思った(と言っても、カセットに吹き込んだもの)。「カンガルーの存在なしにカンガルーは存続しないし、カンガルーの存続という目的がなければカンガルー自体も存在しないのです」。あげく、「もし、あなたがふたつに分割され、僕がふたつに分割され、そしてその四人でベッドを共にできたらどんなに素敵でしょう」と宣う。ほとんど偏執狂の独り言。
◆『午後の最後の芝生』:芝生刈りのバイト。僕はアルバイトの最後の日、その家の芝生を刈ることになった。アルコールを手放さないよく肥えた女主人。彼の芝生刈りを褒め、飲み物をすすめ、そして、見てほしいものがあると邸内に誘う。女の子の部屋。一月以上の埃が積もった部屋。女主人は主人公に問う。「どんな女の子の部屋だと思う?」。彼は想像したままを口にする。気怠い中にも満足げな女主人の表情。「次回も芝生を刈りにおいでよ」。しかし、それ以来、僕は芝生を刈ったことはない。
◆『土の中の彼女の小さな犬』:シーズンオフのホテル。ガールフレンドと喧嘩別れして、一人。そこで一人の女と出会う。境遇当ての他愛無い会話。夜のプールサイド。女が昔話をする。死んだ犬。一緒に埋めた貯金通帳。それを掘り出したこと。そして、消えない匂い。僕はいう。「手を嗅がせていただいてもいいですか?」。手からは石鹸の匂いしか、しなかった。
◆『シドニーのグリーン・ストリート』:シドニーの場末、グリーン・ストリートで探偵事務所を開いている僕。「羊男」が「羊博士」に耳をちぎられた。僕は羊男の耳を取り戻すべく奮闘するのだが…。
● モシャの呟き
「アルコールを手放さないよく肥えた女主人」のいる家に芝生刈りに行く…。
 考えただけで憂鬱になりますね。
 行きたくない病を発症しそうです。
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プロフィール

●ミネルバネオ代表 石橋武
【経歴】
1974年/立命館大学経営学部を卒業し、㈱大阪読売広告社に入社
1994年/現代文講師出口汪氏と大学受験予備校S.P.Sを立ち上げるべく、㈱大阪読売広告社を退社。㈱ミネルバ代表取締役として、大阪、後に東京で大学受験予備校S.P.Sを経営。
2002年/大阪のS.P.Sにて、出口氏が開発した教材「論理エンジン」を使用した個人のお客様向け添削業務や国語特訓塾、学校様・塾様向けの「論理エンジン」販売や指導方法のレクチャーを開始。
2007年5月/㈱水王舎代表取締役に就任し、「論理エンジン」営業のみならず、書籍の企画・販売にも携わる。
2011年2月、㈱水王舎代表代表取締役を退任。
2011年8月/ミネルバネオを設立
趣味は読書、映画鑑賞。MC中心のお笑いオヤジバンドの一員でもある。

●共同執筆者(ペンネーム:モシャ)プロフィール
甲南大学を卒業しました。
ミネルバネオで働いています。
30代半ばを過ぎてしまいました。
よく聴く音楽はプリンス、レディオヘッド、シールなどです。
親戚は人間国宝(陶芸)です。ちなみに私の父方の祖父も陶芸家でした。

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