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『その道の先に消える』

 中村文則さんの小説です。
 SとMの関係性をベースにした物語です。なので、肉体的な描写があります。が、下劣な内容ではなく、精神面に重きを置いた物語です。
 中村文則さんの本を読まれた読者さんたちの書評に、「やらしい描写が多い」とか「やらしい描写は不要」というものを時々見かけます。が、エロティックな描写なしで、精神面だけをクローズアップして書くことは、難しいんじゃないかなぁと私は思っています。なぜなら、肉体と精神の矛盾によって生じる葛藤を書いているのが、中村文則さんの作品だという気がするからです。とことん肉体的な描写をしたからこそ、登場人物が精神的におかしくなり、狂気と破滅に向かっていく様を読者にも追体感させることが可能なのではないでしょうか。
 『その先の道に消える』は、桐田麻衣子に人生を狂わされた男性たち。そして、圧倒的な魅力を持っているにも関わらず、自身に無関心で、人生に飽きてしまった男性Yに身も心も捧げた女性たちの物語です。
 ただ、この物語を生み出す核になっているのは、男たちの人生を狂わした桐田麻衣子でもなく、圧倒的魅力を持つ男性Yでもなく、ましてや主人公の刑事たちでもなく。
 もうすでに亡くなった一人の若い女性。
 この女性が元々、男性Yに出会っていなかったら、全ての悲劇が起こっていないという点で、物語の核で、真のファムファタルです。
 読み終わった後、感じたのは、「最初から最後まで出番が沢山あったのに、桐田麻衣子にはなぜか魅力を感じない」ということでした。でも、よく考えたら、彼女は単なる駒なんですよね。だから、あまり魅力的に書かれていない。
 吉川という男性を狂わした、最も魅力的な、今は亡きファムファタルの、生前のセリフがとにかく凄いです。自分のことを好きな男性に対して、心を抉る言葉を吐きます。こんなことを言われたら、男性はおかしくなるかもしれませんね。彼女の肉体を手に入れたと思ったあとで、彼女の精神が自分のものになっていないと知った吉川は、実は彼女の肉体も精神も、最初から自分の手には入らないものだったのだと思い知る。
 このファムファタルの強烈なセリフを、みなさんも食らってみてください。あまりにも強烈すぎて、私は、思わず笑ってしまいました。が、男性読者さんには、かなりキツイ言葉かもしれませんので、覚悟が必要です。
 そして、私的にこの作品はR20です。

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プロフィール

●ミネルバネオ代表 石橋武
【経歴】
1974年/立命館大学経営学部を卒業し、㈱大阪読売広告社に入社
1994年/現代文講師出口汪氏と大学受験予備校S.P.Sを立ち上げるべく、㈱大阪読売広告社を退社。㈱ミネルバ代表取締役として、大阪、後に東京で大学受験予備校S.P.Sを経営。
2002年/大阪のS.P.Sにて、出口氏が開発した教材「論理エンジン」を使用した個人のお客様向け添削業務や国語特訓塾、学校様・塾様向けの「論理エンジン」販売や指導方法のレクチャーを開始。
2007年5月/㈱水王舎代表取締役に就任し、「論理エンジン」営業のみならず、書籍の企画・販売にも携わる。
2011年2月、㈱水王舎代表代表取締役を退任。
2011年8月/ミネルバネオを設立
趣味は読書、映画鑑賞。MC中心のお笑いオヤジバンドの一員でもある。

●共同執筆者(ペンネーム:モシャ)プロフィール
甲南大学を卒業しました。
ミネルバネオで働いています。
30代半ばを過ぎてしまいました。
よく聴く音楽はプリンス、レディオヘッド、シールなどです。
親戚は人間国宝(陶芸)です。ちなみに私の父方の祖父も陶芸家でした。

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