酒屋のオッチャン
家に居る時、「私、今、暇人だなぁ」と思うことがあります。かといって動きたくないため、ソファーでゴロゴロしています。
しかし、おもむろに立ち上がり、冷蔵庫を覗いたりもします。
私には昔から、暇な時に冷蔵庫を覗く癖があります。高校生の頃の、夏休み。自宅で宿題をしていて、飽きた時に、よく1階の冷蔵庫を覗きに行っていました。
高校生の私は、1日に何度も冷蔵庫を覗きに行っていました。当たり前ですが、冷蔵庫の中身が変化したりはしません。昼間は私と祖母しか家に居らず、新しく食品を買い足してくれる存在である父や母は居ません。
ちなみに、高校時代の夏休み。あまりに暇なのと、気分転換したかったため、夕方にシャワーを浴びたことがあります。私は、祖母以外家には誰も居ないと思い、安心しきっていました。しかし、突然玄関の扉が開く音が聞こえました。そして、続いて、ガヂャガチャという音と共に、誰かが脱衣所横のリビングに入ってきた音がしました。ガヂャガチャという音をさせて、家族が自宅に帰ってきたことはありませんでした。だから、家族ではないはず…。
どうしよう。バスタオル1枚の私は怖くなりました。ガヂャガチャという音が止んだ頃、私が脱衣所からリビングに通じるドアを薄く開け、覗くと、そこには、なぜか、かがんでいる男性の後ろ姿が。
「ヒー! なんで、かかんどんねん」と思いながら、私が息をひそめていると、男性は、さっと立ち上がり、帰って行きました。見たことのある、松方弘樹さん似の渋い中年男性でした。
私はバスタオル1枚の姿で、リビングに出、さっきの男性が、酒屋のオッチャンだと気付きました。オッチャンがかがんでいたのは、床下収納にプラスティックケースに入ったビール1ダースを入れるためでした。
「いきなり、背後から棒で殴らなくて良かったー」と思いながら、私は冷蔵庫を開けました。そこには、母が作った麦茶が並んでいました。
そして月日が流れ、約10年後。父から驚くべき話を聞きました。
「酒屋のオッチャン、知っとるやろ。あのオッチャン。わしがお母さんと結婚せんかったら、お母さんはあのオッチャンと結婚しとってんで。許婚やったらしい。でも、会社で知り合ったお母さんとわしが結婚することになってん。だから、結婚するとき、わしはオッチャンに謝ったんや」と父は神妙な面持ちで私に語ってきました。
ということは。
もし母が酒屋のオッチャンと結婚していたら、私は生まれていませんでした。なので、私がシャワーを浴びたあと、リビングにいたオッチャンの存在にビビるような事態にもならなかったんだなぁ、と不思議な気持ちになりました。背後から棒で殴るかどうかなんて、考えることすらなかったのです。私はこの世に存在していなかったのですから。
また、数年前、母から聞いたのですが、酒屋のオッチャンの息子さんと私の2歳年下の弟は知り合いで、酒屋のオッチャンの息子さんは、ある日、私の2歳年下の弟が私の父の会社で働いていると知り、自分も親であるオッチャンの酒屋を継ぐことを決めたらしいです。
恐怖体験が、後に違う話に化けました。世の中、不思議なことだらけです。
しかし、おもむろに立ち上がり、冷蔵庫を覗いたりもします。
私には昔から、暇な時に冷蔵庫を覗く癖があります。高校生の頃の、夏休み。自宅で宿題をしていて、飽きた時に、よく1階の冷蔵庫を覗きに行っていました。
高校生の私は、1日に何度も冷蔵庫を覗きに行っていました。当たり前ですが、冷蔵庫の中身が変化したりはしません。昼間は私と祖母しか家に居らず、新しく食品を買い足してくれる存在である父や母は居ません。
ちなみに、高校時代の夏休み。あまりに暇なのと、気分転換したかったため、夕方にシャワーを浴びたことがあります。私は、祖母以外家には誰も居ないと思い、安心しきっていました。しかし、突然玄関の扉が開く音が聞こえました。そして、続いて、ガヂャガチャという音と共に、誰かが脱衣所横のリビングに入ってきた音がしました。ガヂャガチャという音をさせて、家族が自宅に帰ってきたことはありませんでした。だから、家族ではないはず…。
どうしよう。バスタオル1枚の私は怖くなりました。ガヂャガチャという音が止んだ頃、私が脱衣所からリビングに通じるドアを薄く開け、覗くと、そこには、なぜか、かがんでいる男性の後ろ姿が。
「ヒー! なんで、かかんどんねん」と思いながら、私が息をひそめていると、男性は、さっと立ち上がり、帰って行きました。見たことのある、松方弘樹さん似の渋い中年男性でした。
私はバスタオル1枚の姿で、リビングに出、さっきの男性が、酒屋のオッチャンだと気付きました。オッチャンがかがんでいたのは、床下収納にプラスティックケースに入ったビール1ダースを入れるためでした。
「いきなり、背後から棒で殴らなくて良かったー」と思いながら、私は冷蔵庫を開けました。そこには、母が作った麦茶が並んでいました。
そして月日が流れ、約10年後。父から驚くべき話を聞きました。
「酒屋のオッチャン、知っとるやろ。あのオッチャン。わしがお母さんと結婚せんかったら、お母さんはあのオッチャンと結婚しとってんで。許婚やったらしい。でも、会社で知り合ったお母さんとわしが結婚することになってん。だから、結婚するとき、わしはオッチャンに謝ったんや」と父は神妙な面持ちで私に語ってきました。
ということは。
もし母が酒屋のオッチャンと結婚していたら、私は生まれていませんでした。なので、私がシャワーを浴びたあと、リビングにいたオッチャンの存在にビビるような事態にもならなかったんだなぁ、と不思議な気持ちになりました。背後から棒で殴るかどうかなんて、考えることすらなかったのです。私はこの世に存在していなかったのですから。
また、数年前、母から聞いたのですが、酒屋のオッチャンの息子さんと私の2歳年下の弟は知り合いで、酒屋のオッチャンの息子さんは、ある日、私の2歳年下の弟が私の父の会社で働いていると知り、自分も親であるオッチャンの酒屋を継ぐことを決めたらしいです。
恐怖体験が、後に違う話に化けました。世の中、不思議なことだらけです。