石橋 武の「多読乱読、言いたい放題!」055
私が今まで読んだ本のうち、印象に残った本を紹介しています。
● 中村文則『遮光』
2004年上梓。
これは素晴らしい作品だ。今までの日本文学という殻から、一歩踏み出した感触がある。
幼い時に両親に死なれ、里親を転々とする内に身につけた「演技」。それは主人公にとっては、「生きやすく」するための方便だった。学生である彼の同棲相手が事故死してしまう。その現実を受け入れられない彼は、死体から彼女の小指を盗み、ホルマリン漬けにし、片時も離さない。友人たちには、彼女はアメリカへ留学したと嘘を言い、その嘘を「作り話」で脚色する。しかし、相手や場の雰囲気に合わせるような「演技」が途切れる瞬間、彼は途轍も無い大きな暴力衝動に襲われる。物理的な、又は言語を介しての暴力衝動。が、我を忘れることはなく、常にそれを客観視している自分をも感じている。「こんなことで良いのか」と常に自問する自分を感じている。それでもそれを止めることはできない。
根底にあるのは、恐らく、愛する者の喪失に伴う、自らの生への疑問だ。「愛する者」を失った自分に、生きている意味はあるのか? 彼女と過ごす筈だった「典型的な生活」。そこに縋り付こうとしている自分に、生きている価値はあるのか?
ラスト、抑えきれない暴力衝動の後、彼は「死んだ彼女」と一体化しようとする。この作品は、その段階において、真の純愛小説として昇華したように私には感じられた。
★モシャの呟き
とにかく、「小指」は無理です。百歩譲って、髪の毛ならオッケー。と書いたところで、昔読んだ雑誌に載っていたおまじないを思い出しました。
「好きな人の髪の毛を手に入れ、それをホットケーキの生地に混ぜて焼き、食べれば両想いになれます」と書いてありました。ハードル高すぎますよね。どうやって好きな人の髪の毛を採取するんでしょうか。謎です。
● 中村文則『遮光』
2004年上梓。
これは素晴らしい作品だ。今までの日本文学という殻から、一歩踏み出した感触がある。
幼い時に両親に死なれ、里親を転々とする内に身につけた「演技」。それは主人公にとっては、「生きやすく」するための方便だった。学生である彼の同棲相手が事故死してしまう。その現実を受け入れられない彼は、死体から彼女の小指を盗み、ホルマリン漬けにし、片時も離さない。友人たちには、彼女はアメリカへ留学したと嘘を言い、その嘘を「作り話」で脚色する。しかし、相手や場の雰囲気に合わせるような「演技」が途切れる瞬間、彼は途轍も無い大きな暴力衝動に襲われる。物理的な、又は言語を介しての暴力衝動。が、我を忘れることはなく、常にそれを客観視している自分をも感じている。「こんなことで良いのか」と常に自問する自分を感じている。それでもそれを止めることはできない。
根底にあるのは、恐らく、愛する者の喪失に伴う、自らの生への疑問だ。「愛する者」を失った自分に、生きている意味はあるのか? 彼女と過ごす筈だった「典型的な生活」。そこに縋り付こうとしている自分に、生きている価値はあるのか?
ラスト、抑えきれない暴力衝動の後、彼は「死んだ彼女」と一体化しようとする。この作品は、その段階において、真の純愛小説として昇華したように私には感じられた。
★モシャの呟き
とにかく、「小指」は無理です。百歩譲って、髪の毛ならオッケー。と書いたところで、昔読んだ雑誌に載っていたおまじないを思い出しました。
「好きな人の髪の毛を手に入れ、それをホットケーキの生地に混ぜて焼き、食べれば両想いになれます」と書いてありました。ハードル高すぎますよね。どうやって好きな人の髪の毛を採取するんでしょうか。謎です。